死なない転職

死に場所を探さない

泣きながら大森靖子

 よく分からないが泣いている。
 私にはよく分からないけれど泣き始めてしまうことがあってしかも それがしばらく続く。一日中続く倦怠感、みたいな。今日は運悪くそんな日で職も決まらないし家に居場所もないし息苦しいけど息抜きの仕方も分からないし友達もいないしただただ泣きながら部屋を片付けている。私の部屋は私みたいに汚い。いらない服が山をつくってそれに躓きながら時々座って泣いてまた片付けての繰り返し。 服は今自分が見てアガるか/アガらないかで残すか捨てるか決めている。ほとんどの服がアガらない。それもそのはず、ほとんど親の顔を見て買ったものばかりだから。親がこれ似合うよと押しつけてきて、それを断ると機嫌が悪くなるから適当にへらへら良いねと言 って、買ってもらって、タンスの肥やしになる。 そんなことばっかり。今の私は、それはおかしなことだと分かるし嫌いとか私には似合わないと言うことが出来る。ようやくだ。ようやく自我を手に入れた私は自分の意思をはっきり言うことが出来る 。好きをゆだねると自分が無くなってしまうから、そこはちゃんとしっかり握ってなきゃダメだなと二十三にもなってようやく理解して実行している、多分。

 何の話をしてたっけ? ええと、最近は大森靖子さんの曲を聴いています。聴き始めたときに遂に私もこのフェーズに突入したか、と思った。サブカル女メーター急上昇の音。ぶっちゃけた話、全然聴いたことなかったし、 勝手に一方的に嫌悪感を抱いていた。椎名林檎に似ていると言われているのを見たから。私のなかで椎名林檎は神様にも等しい存在だ。そんな神に似せようとしている人がいるなんて! 冒涜じゃんと思ったし、そもそも椎名林檎に似ているなら椎名林檎聴けば良くない? ご本尊が一番良いに決まっている。そう思って意識的に遠ざけてい た。食戟のソーマのエンディングも飛ばしてたし。っていうか何言ってるかよく分からなくて怖かったし。
 というわけで大森靖子は私の人生にはいらない! と決めつけて見て見ぬふりをしていた。それがどう出会ったのか、たまたま私のすごく好きな人が大森靖子の死神を良いと言っていたからだ。 私は好きな人の何もかもを知りたいタイプで、そこから何か良いものを吸収してやろうとも思っている。だからそんな好きな人が言うなら、 と聴いてみた。手元のスマホでさくさく調べる。 YouTubeは無料だし。そこであ、結構良いな、と思った。 いや、悪くない、だっけ。どっちでもいいや。 とにかく良いと思ったのに、私の意地がそれを認めようとしなかっ た。良いのに、良いけど、変に粗探しをしてしまう。 そこで一旦終わり。死神って曲は良いのかもしれないけれど大森靖子は好かん。以上。
 そこからまたしばらく私の人生の中から大森靖子の文字が消える。 いや、かすれてうっすらは残っていたかもしれない。しかし大森靖子の音楽を聴くことなく、そのまま時間が過ぎていった。
 そして急にモーニング娘。にハマる。
 きっかけは何もはっきり覚えていないけれどとにかく好き! と思った。最初はプラチナ期の高橋愛さん。高橋愛さんがあまりにもあまりにもかっこよくて可愛くて歌が上手くてダンスも上手くて 、一人で抱えきれずしばらく連絡取ってなかったハロプロ好きだったやつに連絡した。小田さくらさんのプレゼンが送られてきた。コミュニケーション不全でウケる。そいつがかなり熱心に次期高橋愛さんこと小田さくらさんを推していたので、そのまま14とか、 数字のついた最近のモー娘。を見始めた。ハ? みんな歌がメチャ上手いんだが……。私はアイドルだろうと誰だろうと歌が上手い人が好きだ。下手だったらすぐ聴かなくなってしま う。でもモー娘。、歌が上手いし、曲も好き……。ハ? 好きなんだが……。ここから転がって転がって、佐藤優樹さんを好きになる。ハア……佐藤優樹さん……歌が上手いし顔がお綺麗すぎ る……。
 私のモー娘。の知識はいわゆる黄金期で止まっている。今の、現代のモー娘。の解析度を上げていくためどんどん動画を見ていた。私にはいくらでも時間がある。そう、休職中だから。そうしてモー娘 。動画見ていくうちに、関連動画で大森靖子の文字を見つける。最初はスルーしていたけれど何回も、何回も出てくる。しかも謎の感動という煽り文句付き。そこまで言うなら見てやろうじゃん。神様もびっくり何様の上から目線で見てみることにした。どうせ暇だし。
 最初はすぐ閉じた。なんか、怖かったので。迫力、怖。でもまた開いて、少しずつ少しずつ見た。少しずつ、少しずつ見ていくうちに 吸い込まれていった。とどめが最後のさようなら。アカペラでギタ ーも使わずあんなこと出来るのか。人を惹きつけてしまうのか。脱帽した。言葉も出なかった。その勢いのままアップルミュージックでアルバムを落とした。あー、すごい。
 私は音楽に救われた側の人間で、もし音楽がこの世になかったら、と考えては怖くなって考えるのを止めてしまうくらいには音楽が好きだ。何かあったとき、必ず私は音楽を聴く。音楽にも容量用法用途 があるとも思っている。どういうときにどういう音楽を聴くか、 これは大事なことだ。例えば、私はとても元気があるときじゃないとホルモンを聴くことが出来ない。人によるけど、色々音楽を使い分ける場面があるはずだ。
 私は大森靖子の歌を聴いて、酸素ボンベを手に入れた、と思った。 元気がないときに聴ける曲って案外少ない。みんな元気出してー前向いてこーって曲は確かに良いけど、聴くのに体力を使う。 元気が出始めたときに聴くと勢いが出るかもしれないけれど、元気なんてない気力もない最底辺にいるときにはちょっと眩しすぎる。そういう、 真っ暗な部屋でうずくまった時に聴ける音楽だなと思った。聴くと少し、呼吸が楽になる。こういう音楽に出会う頃が出来て、私はとても嬉しい。ちゃんと聴いて全然椎名林檎じゃないとも思った。そのあたりは本当にごめんなさい。ただの私の思い込みと意地でした。
 というわけで真っ暗な部屋で服にうずくまりながら大森靖子を聴いています。だらだら涙を流しながら大森靖子を聴いています。YouTubeでばっか見てごめんね。アップルミュージックで聴き倒すから許して。元気が出たらライブにも行くから。