死なない転職

死に場所を探さない

なんて優雅な自傷行為

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 献血に行った。でも私は献血が苦手で、もっと言うなら注射が苦手だった。だって、注射は痛い。痛みにひどく弱い。
 今週の月曜日のこと、就職先も決まらず自分もうまく動けず窒息し そうになったときがあった。しかし家には帰りたくなかった。余計 に窒息してしまいそうだったから。正論は反論できない分タチが悪 い。きっと正論に押し潰されて窒息死してしまった人がいるだろう なと思った。私も死にそうだったから。
 そうだ、献血に行こう。私はそう思った。私は献血が苦手で注射が苦手だ。痛みが嫌いだから。だからこそ献血に行こうと思った。な んだか身体を傷つけたくなってしまったし。しかし私は臆病で痛み が苦手なのでせいぜい身体のどこかを掻き毟るとか身体のどこかに 思いっきり爪を立てるとか、そういうことしか出来ない。だから合法的に痛みを与えてもらおうと思ったのだった。苦手なことをして自分を傷つける意味合いもあった。
 しかし地元の最寄りの献血会場は受付時間を二時間ほど過ぎていたどころか、今年の初めに閉鎖されていたのだった。私はがっくりし て、自分を罰したい気持ちがだけが残って、湿気った花火みたいだ った。罰したくても私は自分に甘いし弱いから何も出来ない。窒息しそうな息苦しさだけが残って、結局とぼとぼ歩いて本屋に行った 。適当に何冊か立ち読みしてから親に迎えに来てくれと頼んだ。こ こで親に頼まなきゃ行けないのが最高にダサいよね。こんな年にも なって親が居ないと生活が成り立たないのが最高にダサい。 田舎は車がないと何も出来ない。車がない私は何も出来ない。だか ら私の人生から親を取り外すことが出来ないんだと思った。出来るだけ早く、取り出したいんだけど。

 さて、今日は時間があった。派遣と派遣の職場見学の間にぽっかり と三時間ほど空いた時間が出来てしまった。どうしようか、 二つ目の会場近くに移動しようか、と思ったその時「献血、ご協力下さーい」声が聞こえた。一回はスルーしてそのまま前を通 った。ああ献血がやっている。私は考えた。 電車に乗る前にICカードにチャージする。この前行かなかった分、今日行けばいいのでは? チャージが完了しました、ICカードが出てくる。いや、でも痛い よ。だって身体に針指すわけだし。左側には改札、右側には献血の お兄さん。でも結局あの時自分を罰せなかったじゃん。AB型、不足しています。お兄さんの持つ看板の文字。ここから三時間どうや って潰すの? 時間あるんだから行けるよ。私は一歩踏み出して、そのまま右に歩みを進めた。「献血ってどこでやってますか?」お兄さんは懇切丁寧に献血ルームの道順を教えてくれた。
 献血は以前、友達に連れられて一度やったことがある。でもあの時は自分の血液型が本当に合っているか確かめるため、という目的があった。だから痛くても仕方がないと割り切れたのだ。
 しかし今回は違う。自分一人の決断で献血ルームにやってきた。痛いかもしれない、貧血になるかもしれない。でもこれは自分への罰だ。今更だけど。そうして検査諸々を受けて(献血の前に一度採血 をするなんて覚えていなかった!)、私は献血をすることになったのだった。
 献血ルームの人たちは親切で丁寧だった。とても痛いと思っていた献血は思っていたほど痛みはなく、四百ミリリットルはあっという間に抜かれた。せめてもっと時間のかかる成分献血にしておくべきだったと後悔した。部屋を出た私はありがとうございましたとお礼と、コ インをもらう。このコインでお菓子か、アイスを選んで下さい。セ ブンティーンアイスでティラミスコーンを選ぶ。
 かくして私は自傷行為をあっという間に終えたのだった。飲み物アイス付きの簡単であっけない自傷行為。これを自傷行為と言っていいのか分からないけれど。こんな気持ちで献血来るなって言われる のかな。分からない。アイスはとても美味しかった。